零戦の開発過程では、発注元である海軍と製作会社の三菱の間で打ち合わせが当然行われます。
その一つが計画説明審議会という会合です。

三菱側設計主任である堀越二郎ももちろんこの会合に出席しています。
この場で堀越は、海軍から要求されていた主な性能、航続力・速度・格闘力に関して、その優先順位を質問します。

なぜならこの三性能は反比例の関係にあり、どれかを高めるとどれかが低下する性質のものだからです。
世界的に見ても類の見ない、海軍の要求する高性能を全て同時に達成することは、
不可能ともいえるほど至難の業と思われました。
だから堀越はそれらの優先順位を知りたかったのです。

これに対し、海軍側の二人の将校の間に激論が始まりました。
それは「航続力・速度」対「格闘力」の議論で、戦地の実情を真剣に考えた上での意見なので両者とも譲りません。

現場の現状を反映したこれら意見は両方ともに正論であり、
そえゆえにどこまで行っても平行線で結論の出し得ない議論だと堀越には思えました。
そしてこの難しい問題を解決するためには、
自分たちが三性能を達成するしかないのだと、決心を新たにしました。

海軍側担当者たちの真剣さと情熱が、新戦闘機の絶対的な必要性を堀越の心を打ったのです。
堀越は設計技術者として、是が非でも彼らの要求を達成しなければならない責任を感じたのに違いありません。
零戦という素晴らしい戦闘機は、だから日の目を見ました。

顧客のために自分に何ができるのか。何をしなければならないのか。
自らの困難は二の次にしたその精神が優れた仕事を生み出す原動力なのではないでしょうか。